意味上の主語の定義
意味上の主語(sense subject)は『英文法解説』に原因して広くひどく誤解され続けてきた文法用語の1つです。
実のところ、「疑問点2」はあなたにとっても、私にとっても「疑問」ではないわけです。あなたにとっても、私にとっても for Alysa Liu to know の Alysa Liu は意味上の主語ですから。
ですが私の「意味上の主語」とあなたの「意味上の主語」の間には「大人と子供の違い、文字通り雲泥の差」があるのです。
- [問1]
- 以下の命題は正しいか?
- 命題1:
- すべての動詞には主語がある。
- 命題2:
- すべての非定形動詞には主語がある。
- 命題3:
- すべての非定形動詞には意味上の主語がある。
- 命題4:
- すべての非定形動詞には主語と意味上の主語がある。
数(number)・人称(person)・時制(tense)・法(mood/mode)により動詞形が定まる、つまり語形が変わる動詞が定形動詞(finite verb)、語形変化しない動詞が非定形動詞(non-finite verb:不定詞、分詞、動名詞)です。
命題1が正しければ当然命題2は正しく、命題2と3が正しければ当然命題4は正しいことになりますが、「すべての非定形動詞には主語と意味上の主語がある。」と教室や本で習った覚えはないでしょう。では命題3「すべての非定形動詞には意味上の主語がある。」はどうですか。しかし、そもそも「意味上の主語」とはどういう意味なのでしょうか?
以下は『英文法解説』からの引用(p.325)。
§ 218 不定詞の意味上の主語
不定詞(分詞・動名詞)には必ず意味上の主語(Sense Subject)がある。
ここで注意していただきたいことは、『英文法解説』の「不定詞」は「to不定詞」の意味であることです。ですから以下のように訂正する必要があります。
- ■ 訂正1:
- § 218 to不定詞の意味上の主語 to不定詞(分詞・動名詞)には必ず意味上の主語(Sense Subject)がある。
しかし、「不定詞 = to不定詞」と思い込んでいる(信じ込まされている)あなたは「訂正1」は不要と思うでしょう。
ですが、不定詞(infinitive)と to不定詞(to-infinitive)は異なることを意味する2つの異なる文法用語なのです。
『英文法解説』には「to不定詞」という文法用語が全く使われていません。そうすると、本来の不定詞をどう言及することになるのか?
「to不定詞って何?」と問うと、あなたは「to + 原形」と答え 、「to + 不定詞」と答えませんね。不定詞、to不定詞、原形(root)は異なることを意味する3つの異なる文法用語なのです。
「不定詞 = to不定詞」で「原形 = 不定詞」は『英文法解説』に原因して広くひどく誤解され続けてきたイコール関係です。
『英文法解説』の著者は to不定詞を不定詞と誤解しているだけでなく、「to不定詞」それ自体を「動詞形」と誤解しています。これは「英文法学者」と称する資格が問われる深刻な誤りです。以下は同書第13章冒頭部分(p.315)。
第13章 準動詞
準動詞には不定詞(Infinitive)・分詞(Participle)・動名詞(Gerund)の3つがある。
Ⅰ 不定詞
(1)基本用法
§ 211.名詞用法――(1)主語・補語として
(1)主語として To become an expert at anything takes time. (何事にせよエキスパートになるには時間がかかる)
英文法界には不定詞、分詞、動名詞を準動詞(verbal)と呼ぶ文法学者もいますが、to不定詞は動詞でも動詞形でもありません。不定詞に「名詞用法」があるわけがありません。
ですから、訂正1はさらに訂正する必要があります。
- ■ 訂正2:
- § 218 to不定詞の不定詞の意味上の主語 to不定詞の不定詞(分詞・動名詞)には必ず意味上の主語(Sense Subject)がある。
不定詞とは、例えば a. 文 can go の go、do so の do ――「to + 不定詞(to不定詞)」は不定詞の1つの用法にほかなりません。
- If you think you can go it alone, do so.
(一人でやれると思うなら、そうしなさい。)
you は不定詞 go の主語で do の主語は省略されている you、a. 文には意味上の主語はありません。
では、to不定詞には「必ず意味上の主語(Sense Subject)がある。」のでしょうか?
そもそも「意味上の主語」ってどういう意味なんでしょうね?
著者は「意味上の主語」の意味を、「意味上の主語」それ自体を全く解説せずに独断的に「必ず意味上の主語(Sense Subject)がある。」と決めつけるのですが、「意味上の主語」の無理解の上にその学習は積み上がりません。
プロとアマの根本的な違いは土台の有無――私は学習土台のない英文法学習をアマ英文法学習と呼び、アマ英文法学習に依存した英語学習をアマ英語学習と呼び、アマ英語学習に依存した英語教育をアマ英語教育と呼びます。
英語教育を「アマ」にするのは土台を解説しない甘い英文法学習書です。例えば、「意味上の主語」の学習土台となるのは「意味上の主語の定義」です。
- TMシステムによる意味上の主語の定義:
- 意味上の主語(sense subject)とは、非定形動詞(不定詞・分詞・動名詞)の省略されている主語を特定する語句であり、その主語省略の原因となった語句である。
この「語句」は主に他の動詞の主語ですが、動詞の主語に限るものではありません。
- [問2]
- b. 文、c. 文に意味上の主語はあるか?
- Ron promised me to coach our team.
(ロンは私にチームのコーチをすると約束した。) - I want him to coach our team.
(彼にチームのコーチをして欲しい。)
b. 文の非定形動詞は to不定詞の不定詞 coach ――コーチはロンですが不定詞 coach の主語は promised の主語 Ron ではありません。
「すべての動詞には主語がある。」(命題1)故に「すべての非定形動詞には主語がある。」(命題2)――命題1、2は真、故にすべての動詞(定形・非定形動詞)は文構造(S + V)を形成し、to不定詞では以下の文形態。
- for + S + to + V
b. 文の to 不定詞句の文形態は for him to coach our team で以下の文構造(S + V + O)になります。
- S:him
- V:coach
- O:our team
to coach our team を for him to coach our team に入れ替えると d. 文になりますが、d. 文は非文法。
- *Ron promised me for him to coach our team.
非文法になる理由は以下の第1ルール(TMシステムの用語)に則していないからです。
- to不定詞の不定詞の主語省略に係る第1ルール:
- to不定詞の不定詞(ここでは coach)の主語(ここでは him)が定形動詞(ここでは promised)の主語(ここでは Ron)と一致する場合は不定詞の主語を省略しなければならない。
第1ルールにより for him to coach our team → to coach our team の省略変形で d. 文から b. 文が生成し、同時に promised の主語 Ron は不定詞 coach の意味上の主語になります。
「意味上の主語の定義」と「第1ルール」から、意味上の主語は非定形動詞の主語省略により発生するとの根本的理解が得られると、非定形動詞には「必ず意味上の主語がある」の根本的誤りは明々白々!――訂正2から訂正3、3度目の訂正となります。
- ■ 訂正3:
- § 218 to不定詞の不定詞の意味上の主語 主語が省略されている to不定詞の不定詞(分詞・動名詞)には必ず意味上の主語(Sense Subject)がある。
- to不定詞の不定詞の主語省略に係る第2ルール:
- 逆に、to不定詞の不定詞の主語が定形動詞の主語と一致しない場合は、不定詞の主語を必ず表示し、この主語を省略してはならない。
一般論として、複数の動詞(定形・非定形動詞)を有する節(clause:定形動詞を核とする文構造)文構造は複雑化しますから、2つの文法用語――「主語」と「意味上の主語」――をきちんと理解しておくことが大切です。
- We need to wait for that to happen.
(それが起こるのを待つ必要がある。)
不定詞 wait の意味上の主語は定形動詞 need の主語 We、不定詞 happen の主語は that、第2ルールから that 省略は不可。
- We need to wait to see that happen.
(それが起こるのを見届ける必要がある。)
不定詞 wait、see の意味上の主語は We、that は不定詞 see の目的語であり、不定詞 happen の主語でもあります。
もしも、非定形動詞の主語と意味上の主語を混同し「すべての非定形動詞には意味上の主語がある。」(命題3)と誤解したら、どうなる?それだけでも英語・英文法教育は混乱しますが、少なくとも『英文法解説』版「意味上の主語」になってしまいます。
「イタリック体の語が不定詞の意味上の主語である。」との『英文法解説』から例文(p.326)を拾うと、
His politeness is a good example for others to follow. (彼の礼儀正しさはほかの人が見習うにはよいお手本だ)
- 著者の4つの誤解:
- ■ 誤解1:
- 太字 to follow は「不定詞」ではなく to不定詞である。
- ■ 誤解2:
- to不定詞の不定詞には主語があるが、 to不定詞の主語というものはない。
- ■ 誤解3:
- for others の others は主語であるが「for others」という主語はない。
- ■ 誤解4:
- for others の others は不定詞 follow の主語で意味上の主語ではない。
「著者の4つの誤解」は『英文法解説』から受け継がれてきた負の遺産の1つです。
- to不定詞の不定詞の主語省略に係る第3ルール:
- to不定詞の不定詞の主語を省略しても省略語が了解される場合は、意味上の主語がなくても省略できる。
- It is necessary to have a purpose in life.
(生きる目的を持つ必要がある。) - It is necessary to move soon.
(すぐに行動を起こす必要がある。)
g. 文の不定詞 have の省略されている主語は「一般の人(people、you)」、h. 文の不定詞 move の省略されている主語は「私たち」で了解省略できます。
文法レベルでは了解省略は任意、主語を表すと i.、j.。
- It is necessary for you to have a purpose in life.
- It is necessary for us to move soon.
- [問3]
- c. 文の不定詞 coach の主語は何?
- I want him to coach our team.
(彼にチームのコーチをして欲しい。)
問2で「c. 文に意味上の主語はあるか?」と問うたままになっていますが、問2も問3も同じ点を問題にしています。
不定詞 coach の主体は「彼」ですが、want の目的語 him が coach の主語?それとも him は意味上の主語?という問です。
him が coach の意味上の主語であれば、k. 文の for him 省略で c. 文が生成したことになります。
- *I want him for him to coach our team.
him が want の目的語兼 coach の主語であるならば、to不定詞の文ユニット for him to coach our team の for 脱落で l. 文から c. 文が変形生成したことになります。
- I want for him to coach our team.
- l. 文の文型:S + V + O
- S:I
- V:want
- O:for him to coach our team
- c. 文の文型:S + V + O + C
- S:I
- V:want
- O:him
- C:to coach our team
多分、あなたは him は不定詞 coach の意味上の主語だと考えたでしょう。しかし、coach の主語なのです。なぜ?
- [問4]
- want の目的語 him が coach の主語であることを証明しなさい。
1つの語句(ここではhim)が2つの文の要素(ここでは目的語と主語)は変だと思うのは、「英語の中核は変形」がわかっていないからです。
- him to coach our team の文型:
- S:him
- V:coach
- O:our team
coach を受動変形すると c. 文は m. 文に変わります。
- I want our team to be coached by him.
(チームは彼にコーチされて欲しい。)
- ■ 証明:
- m. の文意が c. と同じであるということは、c. → m. の受動変形が正しいということであり、 him が coach の主語であることを証するものである。
- ■ TMシステムによる二重文の要素の定義:
- 二重文の要素とは、1つの語句が2つの文の要素として機能することである。
- ■ 二重文の要素の原理:
- 二重文の要素は変形により生成する。
「二重文の要素(double element of the sentence)」はTMシステムの用語です。
『英文法解説』は「S + V + O + to不定詞句」を何らの考え、根拠も示さず「S + V + O + O」としますが、結論的に言うとこの形態は画一的に「S + V + O + C」でも、画一的に「S + V + O + O」でもありません。
文型 S + V + O + C、文型 S + V + O + O は全て他の文型から変形生成するのですが、「S + V + O + to不定詞句」の変形生成には深い洞察が必要であり、「意味上の主語」が深く関与します。
- [問5]
- n. 文、o. 文に意味上の主語はあるか?
- I expected Ron to coach our team.
(ロンがチームのコーチをするものだと思っていた。) - I persuaded Ron to coach our team.
(ロンにチームのコーチをするよう説得した。)
さっそく受動変形なる試金石で Ron to coach our team を試してみましょう。
- S:Ron
- V:coach
- O:our team
すると、n. 文は p. 文、o. 文は q. 文に変わります。
- I expected our team to be coached by Ron.
(チームはロンにコーチされるものだと思っていた。) - I persuaded our team to be coached by Ron.
(ロンにコーチしてもらうようチームを説得した。)
n. → p. で文意は変わらず、Ron は expected の目的語兼 coach の主語で二重文の要素――一方、o. → q. で文意は大きく変わり、説得する相手がロンからチームに変わってしまいます。
このことは、persuaded の目的語 Ron は不定詞 coach の主語でないことを証しています。
そうすると、coach の主語、Ron を受ける him が省略されていることになり、o. 文は r. 文の for him to coach our team の for him 省略で生成した形態であり、Ron は coach の意味上の主語であることを意味しますが、ここではこの点をきちんと証明することにします。
- *I persuaded Ron for him to coach our team.
(彼[ロン]がチームのコーチするようロンを説得した。)
r. 文は非文法であり、for him 省略で r → o. と変形が進むわけですが、受動変形が先行すると、r. → s. の変形展開になります。
- S:him
- V:coach
- O:our team
- I persuaded Ron for our team to be coached by him.
(チームは彼[ロン]にコーチされるようロンを説得した。)
こんな持って回った表現は実用的ではありませんが、 s. 文は非文法ではありません。s. 文を非文法とする理由、根拠はありません。
- ■ 「Ron は coach の意味上の主語」であることの証明:
- s. 文が o. 文と同義であるということは、o. 文の不定詞 coach の主語 him が省略されているということであり、この省略は定形動詞 persuaded の目的語 Ron に原因するということは Ron は coach の意味上の主語であるということである。
- 「意味上の主語」に係る2大誤解:
- ■ to不定詞の不定詞の主語が意味上の主語。
- ■ 分詞構文の分詞の主語が意味上の主語。
「2大誤解」の共通の原因は、言うまでもなく根本的に「意味上の主語」がわかっていないこと。
『英文法解説』の「分詞構文」(p.344)は以下のように始まります。
§ 211.分詞構文――(1)基本形など
(1)基本形 主文との意味上の関係は,時・理由・付帯状況を表すものが多い。
Looking down(=When I looked down)from the plane, I could see the east coast of the coral island. (機内から見下ろすと,そのサンゴ島の東岸が見えました)
分詞構文(participial construction)とは何? 何が分詞構文?分詞構文の定義もなく、この文法用語それ自体の解説もないまま「基本形」ときて、そのまま例文が続く――これでは『英文法解説』で分詞構文を学習する人はすでに「分詞構文」を理解していなければならないことになります。
意味上の主語であれ、分詞構文であれ、土台のない英語学習は積み上がりません。
- TMシステムによる分詞構文の土台:
- ■ 分詞構文の定義。
- ■ 分詞構文を生成する変形プロセスの違いによる分詞構文のタイプ化(大きく4タイプ)。
- [問6]
- 「彼は、人助けに大忙しだ。」の意の t. 文、u. 文の Helping others、helping others は分詞構文か?
- Helping others, he is very busy.
- He is very busy helping others.
- 一般的な分詞構文の理解:
- 分詞構文とは、副詞節(従属節)の定形動詞が現在分詞に代わり、接続詞、主節の主語と一致する場合は現在分詞の主語を省略した副詞句の形態である。
したがって、現在分詞の主語が主節の主語と一致しない場合は、v. 文のように現在分詞の主語を表示することになり、この形態の分詞構文を独立分詞構文(absolute participial construction)と呼んでいます。
- Things being what they are, such changes are unlikely to happen any time soon.
(現状では、そのような変化はすぐには起こりそうにない。)
あなたは、文頭現在分詞句の形態から Helping others は分詞構文と考えますね。文末 helping others は?
u. 文 helping others の変形プロセスをきちんと示すと以下の w. → x. → u.。
- *He is very busy in his helping others.
- He is very busy in helping others.
- He is very busy helping others.
- w. → x.:
- 動名詞 helping の主語 his(動名詞の主語は所有格が文法ルール)と is の主語 He は同一人物で非文法な his 省略、He は helping の意味上の主語。
- x. → u.:
- 前置詞 in 省略で動名詞 helping が現在分詞 helping。
「分詞構文」それ自体の意味は「分詞が形成する構文」です。現在分詞句 helping others を分詞構文と考えるにせよ、分詞構文ではないと考えるにせよ、「分詞構文の定義」に照らして判断することになります。
ですから、分詞構文の定義がないと学習はそれ以上進まず、そこでストップせざるを得なくなります。
「一般的な分詞構文の理解」で「分詞構文の定義」に代えることはできません。
- [問7]
- y. 文の since節、z. 文の if節を分詞構文に変形しなさい。
- Since things are getting even worse, we must brace for the worst.
(状況はさらに悪化しつつあり、最悪の事態に備えねばならない。) - If things get even worse, we must brace for the worst.
(状況がさらに悪化するようなら、最悪の事態に備えねばならない。)
since節の分詞構文化プロセスは y. → aa. → ab. → ac.。
- Since things are getting even worse, we must brace for the worst.
- *Since things being getting even worse, we must brace for the worst.
- Things being getting even worse, we must brace for the worst.
- Things getting even worse, we must brace for the worst.
- y. → aa.:
- 助動詞 are を助動詞 being に置換、are → being で分詞構文に変わるが現在分詞句 being getting even worse に節を導く接続詞 Since がついたままの形態は非文法。
- aa. → ab.:
- この変形プロセスを正確に記載すると、Since の「脱落」で Since の「省略」ではない。
- ab. → ac.:
- 助動詞 being 省略により分詞構文の変形プロセス完了(分詞構文の助動詞 being は省略しなくても非文法ではないが、省略するのが慣用)。
– 続く –